フィールドの横で黙々とアップを続けるケンがいた。
使命はとにかく得点に絡むこと、
この秋のリーグ戦、ケンはサブとしてそんな役割を担っている。
お互い無得点のまま迎えた後半開始早々、ケンがコーチに呼ばれる。
全勝同士、どうしても負けられない一戦だった。
風の冷たい日、僕は次男のサッカーの試合を見に行った。

スリートップの右サイドのポジションで、
しつこくチャンスを窺うケン。
中央に切り込んで仕掛けるか、
それとも右サイドに開いてクロスを上げるのか。
必死の子供たちに両チームの親から無償の声援が飛ぶ。

少し昔の話――。

「なんで、リョウ君を使わないんだ」

応援に行った幼いケンがそう叫んだ。
兄、リョウがまだ小学校6年生の時のことだ。
小学生としての最後のサッカーの試合、
スタメンに兄の姿はなかった。

後半、コーチに背中を叩かれ、
リョウが全力疾走でフィールドに向う。
ケンの表情が一瞬にして輝いた。
弟はいつも兄の背中を見つめていた。

今、兄は高校でサッカーを続け、
中学生のケンは地元のクラブチームにいる。

その日――
フィールドを駆けるケンにリョウの姿が被った。
なぜだか、熱いものがこみ上げてくる。
いつか、弟は兄を追い越す時が来るのだろうか、
それとも、兄は弟に背中を見せ続けるのだろうか、
それとも……

どちらにしても、僕はじっと見守るしかない。

フィールドではケンたちのチームが先制点をもぎ取っていた。

コメント

naochan
2008年11月17日18:28

男兄弟って、良いですね。
一人っ子でしたから、やっぱり、「お兄ちゃんを作って」って
小さい時によく言ってましたね。(笑)

メイ
2008年11月17日19:26

世界中のフィールドで、
それぞれいろんなドラマが繰り広げられているんでしょうね。

神奈川県代表、静岡と同ブロックになりましたね^^;

羽生遊
2008年11月18日17:08

naochanさんへ
うちの兄弟を見ていると、仲かが良いのか悪いのか、
わからなくなる時がありますが、
ライバルであり、仲間であり、友達であったりするようです。

ただ、兄はやっぱり兄であって、
さりげなく、弟や妹に優しさを見せる時があります。
そんな時、親の僕も、ちょっとした喜びを感じます。

羽生遊
2008年11月18日17:15

メイさんへ
本当ですね。
小さなフィールドでちっちゃな子供たちが、
一生懸命ボールを追いかけているのを見つけると、
みんな頑張れ、なんて思います。

プロにはプロの、高校生には高校生の、子どもには子どもの、
それぞれのフィールドがあるんですよね。

選手権はどうやら、静岡も神奈川も、
ついでに長男の小学校時代のチームメートがいる熊本も、
最初はうちの近辺で試合なので、
どのカードを見に行こうか、今から楽しみにしています。

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