終ったんだな……

隣の長男と無言のまま、
応援団に挨拶をするケンたちを眺めていた。

「リョウ君と同じサッカーをやる!」

幼い頃に兄の影響で始めたサッカー、
高校最後の試合をその兄が見届けてくれた。
弟は兄を、兄は弟をリスペクトしていた。

妻が他の母親たちと笑顔で僕らのところに来た。
そのあとを追うようにケンたち3年生が、
応援に駆けつけてくれた先輩達に挨拶に来た。

その途中、ケンが僕らの近くに来る。
目が真っ赤になっている。

ケンが僕に手を差し出してきた。
僕も手の平をケンに差し出した。

目頭が熱くなる。

隣でリョウが笑っていた。

【おわり】
「頑張れ!」

相手のコーナーキックの合間、
水を飲む3年生のDFリーダーに声をかけた。
彼が力強く頷き、ポジションにつく。
思わず声をかけずにはいられなかった。

10人になってからのチームは劣勢だった。
相手の分厚い攻撃に体を張った守りが続いていた。

両チームの声援に途切れることはなく、
母親たちの高い声がピッチに響く。

チームはワントップの3年生に変わって、
同じく3年の小柄なエースが投入された。
本来ならば勿論スタメン。
少ないチャンスを彼の突破に託す思いだろう。

交代後間もなく、右サイドに開いたエースにボールが渡る。
3人に囲まれながらも、得意のドリブルで間隙を縫う。
しかし、決勝のゴールは遠かった。

そして、終了間際――
必死の守りの気持ちが、相手の攻めの気持ちに破られる。
2対3。

思いの外、静かなピッチ、
お互い全てを出し切っての勝ちであり、負けだった。

【つづく】
「いいじゃん!」

隣のリョウが叫んだ。
後半10分、左サイドから大きくサイドチェンジしたボールが、
短く速いパスを繋げながら、ゴール前に走りこんだケンに届く。

滑り込みながらの間一髪のシュートは、
惜しくも相手ディフェンダーにブロックされ、
ゴールラインを割った。

でも、流れは悪くない。
そのままの勢いを維持するかのように、
コーナーキックから逆転ゴールが生まれた。

2対1、逆転、仲間たちが大いに沸く。

しかし――

味方ディフェンダーの隙を付いて、
相手のキャプテンがボレーシュートを決める。
同点――気持ちと気持ちの必死の攻防が続く。

そして、残り20分。
痛恨のファールで味方ディフェンダーが退場となり、
チームは10人での残り時間を強いられることになった。

暫くして、ケンは3年生の長身ディフェンダーと交代。
左肩のキャプテンマークを彼にと託した。

【つづく】
リョウが高校生になった弟の試合に来るのは初めてだった。
僕が長男と一緒にケンの試合を見るのも初めてだ。

幼い頃、ケンと一緒に度々兄の試合を応援した。
リョウが出ていないと「何でリョウ君を出さないんだ」と
口を尖がらせていたものだ。

小学校時代は同じチームに所属し、
中学からは兄と弟は少し違うサッカーの関わり方をした。
高校になって、それぞれ違う高校の部活を経て、
兄は専門学校でもサッカーを楽しんでいる。

気付けば時は確実に流れ、サッカー少年は大人へと成長しつつある。

「応援、凄いね」
「ああ、やっぱり選手権だよな」

両校の応援に加えて、高校サッカーファンもこの場に集っているようだ。
グラウンドを取り囲むように人垣ができている。

やっぱり高校サッカーはいいな――

後半を前にした静かなピッチを見ながらしみじみと思う。
汗まみれになって、放課後のグラウンドを走り、
ボールを追い、夢を追い、ひたすら走る。

みんな悔いなくやれ、思い切りやれ。
勝ち負けよりも大切にものは、絶対にあるのだから。

【つづく】
「選手権は3年生の力が必要なんです」

チームの監督は1週間前にそんな話をしてくれた。
最後の大会に懸ける思いはやはり最上級生が強いと思う。

この日、ケンはサイドハーフでスタメンのピッチにいた。
ワントップとバックの3人も3年。
今シーズンは2年生中心のチーム編成だったが、
この日ばかりは3年生たちが躍動した。

序盤、不意を突かれての失点。
仲間を鼓舞し、チームを俯かせなかったのは、
やはり3年生たちだった。

この試合、チームはシーズン当初の4-5-1のシステムに戻し、
監督が言う自分達の「繋ぐサッカー」を貫いた。

「どんなに苦しくてもボールを繋ぐことが人生に活きると思うんです」

監督の言葉が頭をよぎった。
3年生たちは決してロングボールを蹴らずに、
仲間へ仲間へとボールを繋ごうとしていた。

失点してすぐにフリーキックから2年生が同点ヘッドを決める。
盛り上がる応援団、飛び上がるベンチ。

ベンチに控えている3年生もいる。
ベンチに入れない3年生もいる。
高校生と言えども勝負の世界は無情なのかもしれない。

だからこそ、ピッチにいる3年生は頑張るんだと信じたい。
ハーフタイムの笛が鳴り、ひと時の静けさが訪れていた。

【つづく】

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