選手権からの贈り物・最終回
2012年10月4日 選手権からの贈り物 コメント (2)終ったんだな……
隣の長男と無言のまま、
応援団に挨拶をするケンたちを眺めていた。
「リョウ君と同じサッカーをやる!」
幼い頃に兄の影響で始めたサッカー、
高校最後の試合をその兄が見届けてくれた。
弟は兄を、兄は弟をリスペクトしていた。
妻が他の母親たちと笑顔で僕らのところに来た。
そのあとを追うようにケンたち3年生が、
応援に駆けつけてくれた先輩達に挨拶に来た。
その途中、ケンが僕らの近くに来る。
目が真っ赤になっている。
ケンが僕に手を差し出してきた。
僕も手の平をケンに差し出した。
目頭が熱くなる。
隣でリョウが笑っていた。
【おわり】
隣の長男と無言のまま、
応援団に挨拶をするケンたちを眺めていた。
「リョウ君と同じサッカーをやる!」
幼い頃に兄の影響で始めたサッカー、
高校最後の試合をその兄が見届けてくれた。
弟は兄を、兄は弟をリスペクトしていた。
妻が他の母親たちと笑顔で僕らのところに来た。
そのあとを追うようにケンたち3年生が、
応援に駆けつけてくれた先輩達に挨拶に来た。
その途中、ケンが僕らの近くに来る。
目が真っ赤になっている。
ケンが僕に手を差し出してきた。
僕も手の平をケンに差し出した。
目頭が熱くなる。
隣でリョウが笑っていた。
【おわり】
選手権からの贈り物・4
2012年10月3日 選手権からの贈り物「頑張れ!」
相手のコーナーキックの合間、
水を飲む3年生のDFリーダーに声をかけた。
彼が力強く頷き、ポジションにつく。
思わず声をかけずにはいられなかった。
10人になってからのチームは劣勢だった。
相手の分厚い攻撃に体を張った守りが続いていた。
両チームの声援に途切れることはなく、
母親たちの高い声がピッチに響く。
チームはワントップの3年生に変わって、
同じく3年の小柄なエースが投入された。
本来ならば勿論スタメン。
少ないチャンスを彼の突破に託す思いだろう。
交代後間もなく、右サイドに開いたエースにボールが渡る。
3人に囲まれながらも、得意のドリブルで間隙を縫う。
しかし、決勝のゴールは遠かった。
そして、終了間際――
必死の守りの気持ちが、相手の攻めの気持ちに破られる。
2対3。
思いの外、静かなピッチ、
お互い全てを出し切っての勝ちであり、負けだった。
【つづく】
相手のコーナーキックの合間、
水を飲む3年生のDFリーダーに声をかけた。
彼が力強く頷き、ポジションにつく。
思わず声をかけずにはいられなかった。
10人になってからのチームは劣勢だった。
相手の分厚い攻撃に体を張った守りが続いていた。
両チームの声援に途切れることはなく、
母親たちの高い声がピッチに響く。
チームはワントップの3年生に変わって、
同じく3年の小柄なエースが投入された。
本来ならば勿論スタメン。
少ないチャンスを彼の突破に託す思いだろう。
交代後間もなく、右サイドに開いたエースにボールが渡る。
3人に囲まれながらも、得意のドリブルで間隙を縫う。
しかし、決勝のゴールは遠かった。
そして、終了間際――
必死の守りの気持ちが、相手の攻めの気持ちに破られる。
2対3。
思いの外、静かなピッチ、
お互い全てを出し切っての勝ちであり、負けだった。
【つづく】
選手権からの贈り物・3
2012年9月30日 選手権からの贈り物「いいじゃん!」
隣のリョウが叫んだ。
後半10分、左サイドから大きくサイドチェンジしたボールが、
短く速いパスを繋げながら、ゴール前に走りこんだケンに届く。
滑り込みながらの間一髪のシュートは、
惜しくも相手ディフェンダーにブロックされ、
ゴールラインを割った。
でも、流れは悪くない。
そのままの勢いを維持するかのように、
コーナーキックから逆転ゴールが生まれた。
2対1、逆転、仲間たちが大いに沸く。
しかし――
味方ディフェンダーの隙を付いて、
相手のキャプテンがボレーシュートを決める。
同点――気持ちと気持ちの必死の攻防が続く。
そして、残り20分。
痛恨のファールで味方ディフェンダーが退場となり、
チームは10人での残り時間を強いられることになった。
暫くして、ケンは3年生の長身ディフェンダーと交代。
左肩のキャプテンマークを彼にと託した。
【つづく】
隣のリョウが叫んだ。
後半10分、左サイドから大きくサイドチェンジしたボールが、
短く速いパスを繋げながら、ゴール前に走りこんだケンに届く。
滑り込みながらの間一髪のシュートは、
惜しくも相手ディフェンダーにブロックされ、
ゴールラインを割った。
でも、流れは悪くない。
そのままの勢いを維持するかのように、
コーナーキックから逆転ゴールが生まれた。
2対1、逆転、仲間たちが大いに沸く。
しかし――
味方ディフェンダーの隙を付いて、
相手のキャプテンがボレーシュートを決める。
同点――気持ちと気持ちの必死の攻防が続く。
そして、残り20分。
痛恨のファールで味方ディフェンダーが退場となり、
チームは10人での残り時間を強いられることになった。
暫くして、ケンは3年生の長身ディフェンダーと交代。
左肩のキャプテンマークを彼にと託した。
【つづく】
選手権からの贈り物・2
2012年9月26日 選手権からの贈り物リョウが高校生になった弟の試合に来るのは初めてだった。
僕が長男と一緒にケンの試合を見るのも初めてだ。
幼い頃、ケンと一緒に度々兄の試合を応援した。
リョウが出ていないと「何でリョウ君を出さないんだ」と
口を尖がらせていたものだ。
小学校時代は同じチームに所属し、
中学からは兄と弟は少し違うサッカーの関わり方をした。
高校になって、それぞれ違う高校の部活を経て、
兄は専門学校でもサッカーを楽しんでいる。
気付けば時は確実に流れ、サッカー少年は大人へと成長しつつある。
「応援、凄いね」
「ああ、やっぱり選手権だよな」
両校の応援に加えて、高校サッカーファンもこの場に集っているようだ。
グラウンドを取り囲むように人垣ができている。
やっぱり高校サッカーはいいな――
後半を前にした静かなピッチを見ながらしみじみと思う。
汗まみれになって、放課後のグラウンドを走り、
ボールを追い、夢を追い、ひたすら走る。
みんな悔いなくやれ、思い切りやれ。
勝ち負けよりも大切にものは、絶対にあるのだから。
【つづく】
僕が長男と一緒にケンの試合を見るのも初めてだ。
幼い頃、ケンと一緒に度々兄の試合を応援した。
リョウが出ていないと「何でリョウ君を出さないんだ」と
口を尖がらせていたものだ。
小学校時代は同じチームに所属し、
中学からは兄と弟は少し違うサッカーの関わり方をした。
高校になって、それぞれ違う高校の部活を経て、
兄は専門学校でもサッカーを楽しんでいる。
気付けば時は確実に流れ、サッカー少年は大人へと成長しつつある。
「応援、凄いね」
「ああ、やっぱり選手権だよな」
両校の応援に加えて、高校サッカーファンもこの場に集っているようだ。
グラウンドを取り囲むように人垣ができている。
やっぱり高校サッカーはいいな――
後半を前にした静かなピッチを見ながらしみじみと思う。
汗まみれになって、放課後のグラウンドを走り、
ボールを追い、夢を追い、ひたすら走る。
みんな悔いなくやれ、思い切りやれ。
勝ち負けよりも大切にものは、絶対にあるのだから。
【つづく】
選手権からの贈り物・1
2012年9月24日 選手権からの贈り物「選手権は3年生の力が必要なんです」
チームの監督は1週間前にそんな話をしてくれた。
最後の大会に懸ける思いはやはり最上級生が強いと思う。
この日、ケンはサイドハーフでスタメンのピッチにいた。
ワントップとバックの3人も3年。
今シーズンは2年生中心のチーム編成だったが、
この日ばかりは3年生たちが躍動した。
序盤、不意を突かれての失点。
仲間を鼓舞し、チームを俯かせなかったのは、
やはり3年生たちだった。
この試合、チームはシーズン当初の4-5-1のシステムに戻し、
監督が言う自分達の「繋ぐサッカー」を貫いた。
「どんなに苦しくてもボールを繋ぐことが人生に活きると思うんです」
監督の言葉が頭をよぎった。
3年生たちは決してロングボールを蹴らずに、
仲間へ仲間へとボールを繋ごうとしていた。
失点してすぐにフリーキックから2年生が同点ヘッドを決める。
盛り上がる応援団、飛び上がるベンチ。
ベンチに控えている3年生もいる。
ベンチに入れない3年生もいる。
高校生と言えども勝負の世界は無情なのかもしれない。
だからこそ、ピッチにいる3年生は頑張るんだと信じたい。
ハーフタイムの笛が鳴り、ひと時の静けさが訪れていた。
【つづく】
チームの監督は1週間前にそんな話をしてくれた。
最後の大会に懸ける思いはやはり最上級生が強いと思う。
この日、ケンはサイドハーフでスタメンのピッチにいた。
ワントップとバックの3人も3年。
今シーズンは2年生中心のチーム編成だったが、
この日ばかりは3年生たちが躍動した。
序盤、不意を突かれての失点。
仲間を鼓舞し、チームを俯かせなかったのは、
やはり3年生たちだった。
この試合、チームはシーズン当初の4-5-1のシステムに戻し、
監督が言う自分達の「繋ぐサッカー」を貫いた。
「どんなに苦しくてもボールを繋ぐことが人生に活きると思うんです」
監督の言葉が頭をよぎった。
3年生たちは決してロングボールを蹴らずに、
仲間へ仲間へとボールを繋ごうとしていた。
失点してすぐにフリーキックから2年生が同点ヘッドを決める。
盛り上がる応援団、飛び上がるベンチ。
ベンチに控えている3年生もいる。
ベンチに入れない3年生もいる。
高校生と言えども勝負の世界は無情なのかもしれない。
だからこそ、ピッチにいる3年生は頑張るんだと信じたい。
ハーフタイムの笛が鳴り、ひと時の静けさが訪れていた。
【つづく】