ベルが躍る夜・2
第二部のハーフタイム、ここで観客を交えたミュージックベル体験コーナーが始まった。初めてベルを手に取る人がほとんどだと思う。それでも、メンバーの丁寧な指導の下、微笑ましい「もろびとこぞりて」を聴かせてくれた。
このように「ベルカン」のコンサートは例年、大勢の観客に師走の夜のひと時を存分に楽しんで貰おうと、様々な趣向を凝らしている。第一部でも帝国のテーマを弾いたメンバーが、ピアノソロで熟練の腕を披露してくれていた。
それには運営するスタッフの存在も忘れてはならない。進行、受付、観客の誘導、手土産の準備など、「ベルカン」の母体となる音楽サークル「あんだんて」の面々がこのコンサートを陰で支えていた。「ベルカン」のメンバーは「あんだんて」にも所属している。1998年結成の「あんだんて」からの付き合いは19年に及ぶことになる。音楽の縁があって、「ベルカン」のこの夜もある。

いよいよコンサートは第二部の終盤を迎えた。「あんだんて」のフルート奏者とのコラボレーション、ミドル、シニア世代なら知っているであろう、日本の歌謡曲が「ベルカン」の手によって、昭和から平成の時代へとタイムスリップしてきた。
まずは昭和の歌姫、美空ひばりの「真っ赤な太陽」。アップテンポの曲をフルートの丸みのある音色にリズミカルなベルの音が心地良く被さっていく。
続いては由紀さおりの「夜明けのスキャット」。この曲ではフルートに加えて、トーンチャイムも登場した。まるで夜明けの空、遥か遠くへと響き渡るようにベルやトーンチャイム、フルートがスキャットを口ずさむ。
ラストナンバーは民謡の「八木節」。「八木節」で使う本物の鉦の音を合図に、歌い手のパートを軽快にベルとフルートがこなす。思い切ったスローパートでは、柔らかい音色のトーンチャイムがメロディを奏でる。「ベルカン」ならではの手の込んだ演奏だった。

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。「ラ・ベル・カンタービレ」のコンサートもアンコールの拍手を迎えるに至った。
進行役をこなしてきたメンバーが、「ベルカン」を代表して挨拶をする。この1年の「ベルカン」の道のりを象徴するように瞳を潤ませ、優しく微笑んでいる。
フィナーレは十八番のクリスマスメドレー。クリスマスに因んだ曲に正月の曲をミックスさせたチームワーク抜群の演奏で盛り上げる。音楽を愛する女性たちが、精一杯ミュージックベルに打ち込んでいる姿は美しく、清々しい。
ラストは「きよしこのよる」。ベルと音色と観客の歌声が静かな一体感を醸し出し、「ベルカン」の夜が幕を閉じた。

隣の男性がそっと立ち上がり、ステッキを持った。そして、おもむろに私の方を向き、話しかけてきた。
「皆さん、音楽のエリートなんですよね」
穏やかな眼差しをしている。音楽には人の心をときめかせる力がある。
「来年、またここで会いましょうよ」
私の言葉に、彼はにっこりと笑っていた。

Fine

※ミュージックベルコンサートvol.8「八木節」
https://www.youtube.com/watch?v=uDC2X3n07xM
寒さの緩みにほっとした師走の夜――恒例の「ラ・ベル・カンタービレ」のコンサートがJR鶴見駅近くのサルビア音楽ホールで開催された。「ベルカン」の愛称で親しまれている4人の女性によるミュージックベルアンサンブルは、2005年に誕生した。皆、家事や仕事の傍ら、楽しみながらもミュージックベルを極めようと真剣に取り組んでいる。主催コンサートも今年で8回目、横浜・川崎を中心に演奏活動を続けていて、2016年には日本ミュージックベル協会主催のコンテストで最優秀となる金賞を受賞した。
ハンドベルより少し小ぶりなミュージックベルの奏でる音は、透き通るように繊細で可愛らしい。その可愛らしい響きが4人の大人の女性たちの手によって、様々な音色へと彩られ、コンサートに訪れた人たちは、そのハーモニーへと身を委ねる。
コンサートの第一部はイタリア音楽をテーマに、クラシックを中心としたナンバーがゆったりとした時間の中で奏でられていく。「乾杯の歌」、「四季より 春・冬」、「アルビノーニのアダージョ」などが華やかに時にしっとりと、彼女たちの人生の息づかいまでもが、ベルの音色と重なり合うように響く。第一部最後の「フニクリフニクラ」では、軽快なアップテンポのリズムに乗って、会場に訪れていた人たちに笑顔が溢れていた。
 
「初めて来たんですけど、大正解でした」
休憩の時間、私は隣に座っていた紳士然とした初対面の男性に声をかけられた。近郊で行われているコンサートへと、気の向くままに足を運んでいると言う84歳の男性は「ベルカン」のことを公報で偶然、知ったと言う。その男性に見せて貰った手帳には、クリスマスシーズンとも相まって、様々なコンサートのチェックリストがびっしりと書き込まれていた。その中からこの夜、彼は「ベルカン」とのひと時を選んだ。
この「ベルカン」、昨年のクリスマスコンサートを最後にメンバーがひとり減り、現在の4人となった。家庭や仕事を持つ女性ゆえの事情もあるだろう。また、妻であり、母親である彼女たちは、すべてをミュージックベルに捧げられるわけではない。メンバーが去るのは、やはり寂しい。でも、去ったメンバーと創り上げたものは、彼女たちがずっと携えていく財産に違いない。

第二部はいきなりのパフォーマンスから始まった。
映画「スターウォーズ」の帝国のテーマを、騎士のコスチュームを纏ったピアニストが迫力満点に弾く。それに合わせて会場奥から他の3人の女性たちが同じく騎士の姿で厳かに登場した。会場からクスクスと笑いが漏れる。ライトセーバーに見立てたペンライトでポーズを決めた彼女たちに大きな拍手が沸き起こった。「ベルカン」のコンサートは、ただ聴かせるだけではない。羽織ったガウンをさっと脱ぎ、色とりどりの鮮やかな衣装の彼女たちが舞台の上で輝いている。
再び彼女たちがベルを持ち、「スターウォーズ」のメインテーマが響く。激しさと繊細さが共鳴するようにベルが躍る。続けて「美女と野獣」に「レット・イット・ゴー」。お馴染みの旋律が「ベルカン」オリジナルへと見事なまでに変貌を遂げていた。

※ミュージックベルコンサートvol.8「スターウォーズメドレー」
https://www.youtube.com/watch?v=ocTcKKgQzec

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