あるボクサーのこと・5
2008年12月19日 スポーツ コメント (2)
彼は静かに立った――。
1年半ぶりのファイトを、どう闘い、どう締めくくるのか、
僕は最後まで見届けようと気を引き締めた。
相手の勢いは最終ラウンドも続いていた。
長身を屈め、前へ前へとOさんに襲い掛かる。
その歩みは決してスピーディーではないが、
徐々に徐々に、Oさんのスタミナの井戸を枯らしにかかっているようだ。
防戦のOさんも手をこまねいているだけではない。
スゥエーバックを駆使し、サイドステップでリングを広く使い、
相手の隙を狙っている。
「あと1分! 」
どこからか、声がした。その声に目覚めるようにOさんの猛攻が始まる。
自分の全てを出し尽くすように、彼が真っ向の勝負に出る。
ボディー、アッパー……、
右のストレートが相手の頬にクリーンヒットする。
どんなことがあっても止まらなかった相手の前への歩みが止まった。
Oさんのパンチは決して重く強いものではなかったが、
軽快に鋭く相手を捉え続ける……。
会場は喚声と熱気に包まれている。リングでは2人のボクサーが闘っている。
勝つか、負けるか、倒れるか、倒れないか、
いや、己に本当に克ちたいか――。
お互いの全てを出し尽くした闘いは終わり、リングアナが判定を読み上げる。
1対2、勝者のコールはOさんではなかった。
【つづく】
1年半ぶりのファイトを、どう闘い、どう締めくくるのか、
僕は最後まで見届けようと気を引き締めた。
相手の勢いは最終ラウンドも続いていた。
長身を屈め、前へ前へとOさんに襲い掛かる。
その歩みは決してスピーディーではないが、
徐々に徐々に、Oさんのスタミナの井戸を枯らしにかかっているようだ。
防戦のOさんも手をこまねいているだけではない。
スゥエーバックを駆使し、サイドステップでリングを広く使い、
相手の隙を狙っている。
「あと1分! 」
どこからか、声がした。その声に目覚めるようにOさんの猛攻が始まる。
自分の全てを出し尽くすように、彼が真っ向の勝負に出る。
ボディー、アッパー……、
右のストレートが相手の頬にクリーンヒットする。
どんなことがあっても止まらなかった相手の前への歩みが止まった。
Oさんのパンチは決して重く強いものではなかったが、
軽快に鋭く相手を捉え続ける……。
会場は喚声と熱気に包まれている。リングでは2人のボクサーが闘っている。
勝つか、負けるか、倒れるか、倒れないか、
いや、己に本当に克ちたいか――。
お互いの全てを出し尽くした闘いは終わり、リングアナが判定を読み上げる。
1対2、勝者のコールはOさんではなかった。
【つづく】
コメント
○さんの戦いぶりが目に見えるようです。
実はライブでボクシングを見たのは初めてで、
今回はOさんのご好意もあっての応援&観戦でした。
殴り合いのイメージの強かったボクシングも、
技術的なウェートが非常に大きなスポーツだということに、
今回は初めて気がつきました。
この連載もあと1回、Oさんのこと、ボクシングのこと、
そして自分自身ののこと、色々と考えて筆を走らせました。
読んで戴き、ありがとうございます。