あれから12日後――。

仕事を終え、所用で駅までクルマを走らせていた。
用事を済ませ、駅前の商店街を抜け、広い通りに出た。
その通り沿いには菓子メーカーの工場がある。

エンゼル・スカッシュクラブ。
日本で初めての民間のスカッシュコートが、かつてその敷地内にあった。
坂本さんはそこでスカッシュと出会い、
その後、日本のスカッシュ界のパイオニアとなる。

残念ながらボーリング場の一角にあったスカッシュコートは、
すでに閉鎖されていて、建物だけがひっそりと残っている。

今頃、坂本さんはどうしているだろう――

思いを廻らせていると、
見覚えのある白いセダンがすぐ前を走っているのに気がついた。

まさか――

ちょうど「エンゼル・スカッシュクラブ」があったあたり、
白いセダンはハザードランプを点しながら路肩に止まった。
追い越す時、運転席を一瞬見た。

まさか、だった。

坂本さんはセールスマンとしての職責を全うした。
しかし、スカッシュ選手としての引退はまだ口にしていない。

【終わり】

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