始まりの夜・3
始まりの夜・3
始まりの夜・3
セコンドにはジムの会長がいる。
家族、友達、ジムの仲間……。
小野を応援し続けてきた人たちの視線が一点に集中する。

ゴングが鳴り、開始早々から素早い動きで両者の打ち合いが始まった。
相手は27歳、小野と同様、2勝目をもぎ取るための一戦だった。
前へ前へと積極的に攻めてくる相手に、小野はフットワークを駆使して応戦する。パンチを出しては離れ、リングを上手く使って
持ち前のアウトボクシングをやり切っている。
 
「小野さん、いいよ!」
「ガードも高い」
僕の周りではジムの仲間たちが小野に声援を送っている。
小野は前回の教訓を生かして、積極さの中に細心の注意を含ませながら躍動していた。
序盤、両選手から鮮血がほとばしった。
偶然のバッティング、小野は左目の上から、相手は額から血が流れた。
本当の戦いはここからだった。

2ラウンド、小野は1ラウンドの勢いのまま優勢に試合を進める。
「小野さん、スパーよりいいよ」
隣の男性が興奮気味に話す。確かに僕の目にもそれがわかる。
過去2試合よりも動きの切れ、攻守の切り替え、状況判断がいい。
この一戦に人生を賭ける気持ちが体中から湧き出ているようだ。

左ジャブ、右フック、ストレート、
単発ながら小野の繰り出すパンチがクリーンヒットする。
しかし、相手も決して怯んでいない。
額から血を流しながらも決して前へ出ることをやめない。
色白の肌が、褐色の小野とは対照的だ。

お互いがお互いの持ち味を出し切れるか否か、己を信じきれるか否か。
背負うものもある。不安もある。それでも目の前にいる相手にパンチを打つ。
改めて思った。小野はこんなにも凄まじいスポーツにずっと関わっていたんだと。
2ラウンドの3分が激しく、そして瞬く間に終った。

【つづく】

※写真撮影・高木俊幸

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