小野は自分ではどうすることもできない体の重さを感じていた。
戦い続ける気持ちの炎は消えるはずもない。
相手のパンチも今は怖くない。
自分を応援してくれた人たちのためにも
何としても勝たなくてはいけないのだ。
第3ラウンド、相手は若さと前への推進力を武器に
小野を何度もロープに追い詰めていた。
「小野さん、足、足!」
「動いて!」
重くなる足を必死に動かし、小野は防戦を強いられていた。
それでも小野は耐えた。
時に反撃を試み、時にクリンチで相手に抱きつき、
テクニックを駆使し、できること全てを出し切っている。
小野の顔が歪む。そしてすぐさま相手を睨み付ける。
普通の生活をしている僕たち大人がどこかに置き去りにしてしまった必死の形相だ。
とても倒せとは言えない。
その顔を見ていると倒れるな、踏ん張れと念じることしかできなかった。
試合の数ヶ月前――。
小野は引退後の道を真剣に模索していた。
「手に職をつけたいと思っているんです」
小野は鍼灸マッサージの専門学校への入学を目指して、
トレーニングの傍ら東京、横浜、静岡にある専門学校の説明会に足を運んでいた。
引退を間近に控えた小野にとってはボクシング同様、
次の進路は大切なことだった。
「心気一転、頑張ってみます」
小野が選んだのは熱海にある専門学校だった。
どうせなら地元から離れて、新鮮な環境で勉強に取り組もうと彼は思った。
それからは仕事とトレーニングの傍ら、受験勉強も日常に加わった。
試合の約1ヶ月前、小野は努力の甲斐もあって無事合格した。
新たな人生へのチケットを手に入れ、この試合を迎えることができた。
第3ラウンドを小野はどうにか凌いだ。
手数では相手が上回っている。
それでも決定的なパンチは避けられた。
しかし、小野も相手へダメージを与えるパンチは打てなかった。
倒れるものか、倒してやる――
小野は自由の利かない体に鞭を打つように、自分自身に言い聞かせていた。
【つづく】
※写真撮影・高木俊幸
戦い続ける気持ちの炎は消えるはずもない。
相手のパンチも今は怖くない。
自分を応援してくれた人たちのためにも
何としても勝たなくてはいけないのだ。
第3ラウンド、相手は若さと前への推進力を武器に
小野を何度もロープに追い詰めていた。
「小野さん、足、足!」
「動いて!」
重くなる足を必死に動かし、小野は防戦を強いられていた。
それでも小野は耐えた。
時に反撃を試み、時にクリンチで相手に抱きつき、
テクニックを駆使し、できること全てを出し切っている。
小野の顔が歪む。そしてすぐさま相手を睨み付ける。
普通の生活をしている僕たち大人がどこかに置き去りにしてしまった必死の形相だ。
とても倒せとは言えない。
その顔を見ていると倒れるな、踏ん張れと念じることしかできなかった。
試合の数ヶ月前――。
小野は引退後の道を真剣に模索していた。
「手に職をつけたいと思っているんです」
小野は鍼灸マッサージの専門学校への入学を目指して、
トレーニングの傍ら東京、横浜、静岡にある専門学校の説明会に足を運んでいた。
引退を間近に控えた小野にとってはボクシング同様、
次の進路は大切なことだった。
「心気一転、頑張ってみます」
小野が選んだのは熱海にある専門学校だった。
どうせなら地元から離れて、新鮮な環境で勉強に取り組もうと彼は思った。
それからは仕事とトレーニングの傍ら、受験勉強も日常に加わった。
試合の約1ヶ月前、小野は努力の甲斐もあって無事合格した。
新たな人生へのチケットを手に入れ、この試合を迎えることができた。
第3ラウンドを小野はどうにか凌いだ。
手数では相手が上回っている。
それでも決定的なパンチは避けられた。
しかし、小野も相手へダメージを与えるパンチは打てなかった。
倒れるものか、倒してやる――
小野は自由の利かない体に鞭を打つように、自分自身に言い聞かせていた。
【つづく】
※写真撮影・高木俊幸
コメント