山の国だな……

山間の道を軽トラックに乗る親子がふたり。
ハンドルを握るのは81歳の父親の方だ。

「軽トラックは燃費がいいし、小回りも利くから便利だよ」

草津へと続く道は都会の道とはまるで違う。
途中、建設中の八ッ場ダム近くを通る。
テレビでみるよりも恐ろしく広大な土地が、
巨大なダムへと変貌しようとしている。

「集落はすっぽりなくなっちゃうし、山肌があんなに削られて……」

父は昔から反骨精神が旺盛で、自然を愛する男だ。

それにしてもダム建設による地球のダメージはあまりにも大きい。
ダムだけではない。
開発という名のもとにどれだけの財産を僕らは失ったのだろう。

「連休中だというのに道は空いてるね」

爽やかな空、済んだ空気、眩しいほどの緑。
僕らが守らなければならないものがここにはたくさんある。

「うまい奈良漬を売っているところがあるんだけど、寄ってくか」

父が故郷に移り住むようになって約18年。
もうすっかり群馬の人間に戻っている。

【つづく】

コメント

naochan
2013年5月11日23:56

そうなんですね。故郷に移られたんですね。
亡き義父母が、いつか、故郷に戻りたいと言っていたのを
思い出しました。

自然との共存、人類の永遠の課題だと思います。

羽生遊
2013年5月14日11:06

naochanへ
うちの父親はいずれは故郷でという思いがあったようで、
それを実現した自由人です(笑)
それに引き換え、母親はというと根っからの都会人で、
結局は個人主義別居夫婦ということです(笑)

夫婦には色々な形があっていいと思いますが、
うちの両親は変わっている方かもしれません。

それにしても5月の緑は最高でしたよ。

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