5月3日の草津はさすがに混んでいた。

軽トラックは大通りを外れ、
細い静かな道へとは入っていった。

「ここに無料の温泉があるんだ」

父親に連れられて来た場所は、
ほとんど地元の住民しか利用しないという、
少し小ぶりな温泉小屋だった。

4畳半ほどの脱衣所があり、湯船は10畳ほどだろうか。
1人だけ湯船につかる男性がいるだけで、
草津の街の喧騒は嘘のようだ。

「背中、流してくれよ」

何年振りだろう……
いや父親の背中を流した記憶すら僕にはない。
80を過ぎても父親の背中は厚く大きかった。

初めての草津の湯――
熱い湯ということは聞いていたが、
それにしても熱い。

腰から下は浸かることはできても、
どうにもこうにも上半身を入れられない。

「ここより熱い湯もたくさんありますよ」

先客の男性が気持ち良さそうな顔をしている。
父親も頬を赤らめながらも肩までしっかりと浸かっている。

意を決して、胸まで沈める。
熱くて微動だにできない。
それでも、折角だからとじっと我慢すること数分。

これが草津の湯か……

僕はあっけなく湯船から飛び出した。
草津の湯は想像以上に強敵だった。

【つづく】

コメント

naochan
2013年5月16日9:33

私は、結構熱いお風呂が好きなんです。

そうですか。草津温泉は、熱いんですね。
いつか、浸かってみたいです。

羽生遊
2013年5月17日16:02

naochanへ
熱い風呂好きにはお勧めで、
体がしばらくはポッポと気持ち良かったことは確かです。
根性無しの僕ではゆっくりと入っていられませんでした(笑)

草津は山深い温泉地。
もちろん観光客での賑わいはありますが、
機会がありましたら、是非足を運んでくださいね。

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