江ノ島フリッパーズの第2戦は埃舞う強風のグラウンドだった。
カウンター攻撃を仕掛けてくる相手チームに対し、前半に2点を先取、後半早々に3点目をもぎ取り、フリッパーズは優勢に試合を進めていた。
既に交代選手を4人使い、交代枠はあと1人。ここで開幕戦同様、F君の出番が来た。待ってましたとばかりに彼は軽やかにフィールドに走り込み、トップ下のポジションにすっと溶け込んだ。

F君はフリッパーズの立ち上げから関わって来たメンバーの1人で、幼い頃から世話役のO氏夫妻に可愛がられていた。小柄ながら敏捷な動きが持ち味のミッドフィルダー、フリッパーズへの思いも人一倍強い。
高校時代、彼の公式戦への出場は決して多いとは言えなかった。大所帯が故のチーム事情もあったのかもしれない。その俊敏なフットワークと攻撃的なプレーは、膨らんだ蕾のままだった。
しかし、F君は高校3年間、大好きなサッカーをやり遂げる。そして高校サッカーから続く長い坂道の向こう側に「江ノ島フリッパーズ」が待っていた。

ゲームの終盤、試合巧者の相手チームは攻勢のフリッパーズの裏のスペースを狙って来た。足の速い選手を走らせ、一気にゴールを奪う作戦だ。全員がハードワークをこなして来たメンバーにとってはきつい時間帯が訪れていた。
F君も守備の意識を高めながらも攻撃の機を伺い、今の自分ができることに奔走した。結果的にフリッパーズは2失点を許したものの、「ポゼッション」というチームテーマを最後まで貫き、しぶとく勝利をものにする。

勝利を追い求めるチームはいくらでもあるだろう。また、何よりも楽しみを第一に考えるチームも少なくないはずだ。でも、フリッパーズはその両翼を広げ、自分たちの力で羽ばたき始めた。
 
このクラブを好きになってもらおう。
僕たちのやり方を好きになってもらい、僕たちのやり方に感動してもらおう。
僕たちが、僕たちのやり方を楽しもう。

謳われたクラブの理念のハードルは高く、決して容易なものではないだろう。でも、自分たちのやり方で精一杯走り回る若者たちの姿を見た時、フリッパーズが誰もが輝ける場所へとなりえることを感じずにはいられなかった。

「走れなかったです」
開口一番、試合を終えたF君はO氏に向かって呟いた。
「ゲームの流れの中で走れなかった?」
「いえ、フィジカル的にです」
F君は少し悔しそうだったが、そこには汗と埃にまみれた笑顔があった。

コメント

naochan
2013年6月10日9:22

>このクラブを好きになってもらおう。
>僕たちのやり方を好きになってもらい、僕たちのやり方に感動してもらおう。
>僕たちが、僕たちのやり方を楽しもう。

コーラス団の事で、悩み中の私です。
とても心に響きました。

難しいですが、頑張ってください。

羽生遊
2013年6月10日16:36

naochanへ
長文にお付き合い戴き、いつもありがとうございます。
仲間で何かを成し遂げようとする時、
その思いのぶつかり合いや、意見の食い違いなどで、
壁にぶつかることもあろうかと思います。

でも、個人ではなく、チームだからこそ、
獲得できる喜びや充実感は代え難いものになると思います。

偉そうなことは言えませんが、
naochanが悩んでいることが、きっと実を結ぶ時があるはずです。
陰ながら応援しています。

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