左サイドからふんわりとしたクロスが上がる。
試合開始早々、フリッパーズの14番F君が右サイドから豪快なボレーシュートを決める。雨天順延や不戦勝が続く中、F君にとっての公式戦初ゴールはチームに溜まった熱情を爆発させるようなシュートだった。

曇り空の11月3日、文化の日、暑くも寒くもないグッドコンディション。リーグ戦も残すところ3試合、フリッパーズにとって、2部昇格に向けて厳しい戦いが続くことになる。この日はいつものグラウンドではなく、横浜ベイブリッジの傍にある大黒埠頭中央公園のグラウンド。ところどころ土の見える芝のフィールドは前日の雨で滑りやすくなっていた。
グラウンドの手配、審判の依頼、急な日程によるメンバーの確保など、社会人リーグならではの苦労の末、ようやく辿り着いた一戦だった。
この試合のベンチはマネージャーの女子がひとりで守る。今回はジャスト11人。思いに反して、どうしても参加できなかったメンバーもいる。だからこそ、フリッパーズのチーム力を試される一戦でもあった。
 
相手チームはスポーツ系の専門学校が母体のチームで、メンバーはフリッパーズ同様若い。すでに3敗は喫しているものの、上位チームとはいつも接戦を繰り広げていた。
先制したフリッパーズだったが、その後は一進一退の激しい攻防が続く。前半はお互い豊富な運動量を全面に出した攻守が目まぐるしく変わる展開。簡単にロングボールを蹴り込むことをせず、力と力、スピードとスピードのボールの奪い合いがノンストップで続く。
前半はフリッパーズが1点リードのまま終了。後半もこのペースで続くのか、それともどちらからの気持ちが切れるのか、応援する者にとっては、ほっと一息のハーフタイムになった。

応援席にはフリッパーズのサポーターの母親たちがいる。いつも温かい声援を送り、メンバー全員へ慈愛に満ちた眼差しを送っている。彼女たちは選手が幼い頃からフィールドを走る姿を見守ってきた。子供たちはいつの間にか大学生に成長し、フリッパーズのメンバーとなり、フィールドを疾走している。
ここに至るまでには彼女たちも多くの苦労を重ねてきたと思う。日々の食事、怪我の手当て、子供の夢への無償の援助……。その成長に全身全霊を傾けてきた母親たちに思いを馳せると、胸がぐっと熱くなる。だからと言って選手に「恩返しをしろ」とは言えない。ただ、自分たちのサッカーへの情熱を悔いなくぶつけられれば、それが一番の恩返しになると思うのだ。

そんな感傷に浸っていると、両チームの選手たちはすでにフィールドに散らばっていた。見上げればベイブリッジ、後半のホイッスルがいつも通りに鳴った。
後半も前半のノンストップの激しさが続いた。あえて言えば、若干前がかりのフリッパーズに対して、相手チームはやや守備への意識が強い。プレスをかけボールを積極的に奪いに来る。そんな相手にフリッパーズはあくまでもボールを細かく繋ぎ、時にパスカットからのカウンター攻撃を仕掛け、ゴールの扉をこじ開けようとしている。無理矢理に蹴ることはほとんどない。お互いに惜しいシュートは何度もあるが、両チームのキーパーがファインセーブで凌ぐ。勝負の分かれ目は、集中力と体力になりつつあった。
終盤、相手チームのコーナーキックからゴールのファーサイドに鋭いボールが蹴られた。長身選手にぴったりのタイミング。ヘッドから放たれたボールはこれでもかと言わんばかりにゴールネットに突き刺さってしまった。ここから踏ん張れるか否か、フリッパーズにとって、チーム力を試される時間が訪れることになった――。

ピッ、ピッ、ピッー
へたり込む選手もいれば、うな垂れる選手もいる。勝者も敗者もいない。引き分けと言う結果はフリッパーズのメンバーにとっても悔しいに決まっている。それでも、試合をやり遂げた彼らの顔を見ていると、全てを出し切った充実感が悔しさの端々に見え隠れしている。
選手の母親たちもみんな穏やかな笑みを湛えている。これでいい。スポーツはやる者も見る者も、豊かな気持ちになればいいはずだ。
ここまでフリッパーズはふたつの不戦勝を含めて5勝1分。なんとかグループ首位をキープした。残すところあと2試合、次の試合にはこの日、来られなかったメンバーも来るだろう。雰囲気は十分に盛り上がっている。
帰り道、メンバーの談笑する姿が目に入った。「一体感」と言う言葉が頭に浮かんだ。

コメント

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索