昨シーズン、僕は江ノ島フリッパーズの公式戦全試合をこの目で見届けたが、今シーズンはその半分にも満たなかった。フリッパーズを語るには足りないのかもしれない。それでも今、書き記しておきたい気持ちに駆られている。
フリッパーズの2部リーグ昇格までの道のりは決して平坦ではなかった。その中でもキーポイントとなった試合がいくつかあったと思う。そこが、フリッパーズがフリッパーズ足り得るための大切な試合だったと僕は勝手に思っている。

まずは、チームが発足しての昨季のリーグ初戦、白いアウェイのユニフォームが躍った。交代枠5人を全て使い切り、「楽しんで勝つ」をテーマにしたフリッパーズの船出。0から作り上げたチームの昂揚感がピッチの外まで伝わってくる試合だった。
次はその秋、グループ首位として迎えた終盤の6戦目、11人ぎりぎりのメンバーでのノンストップの激戦。この試合はフリッパーズのポゼッションサッカーが、一歩進化した試合だったと思う。結局、ここでの引き分けが、初年度の昇格の妨げになってしまうが、全員サッカーで戦い切った90分は、大きな意味を持つ引き分けだと確信する。
そして、今季の公式戦初戦、リーグ戦が始まる前の全国クラブチーム選手権の県大会。新入団選手、退団選手、そして故障した選手がいる中、チームは自分たちのスタイルに拘って負けた。先制点を許す展開の中、チームは得点を焦らずに、とことん自分たちのスタイルに拘った。だから勝てなかったのかもしれない。でも、だからこそ昇格への道筋ができたのではないだろうか。
その後、フリッパーズはグループ首位チームに惜敗を喫するものの、それ以降、負け知らずのまま、この日を迎えることになった。

冬晴れの1月25日、神奈川県立体育センターの土のグラウンドでは、社会人リーグの2部昇格決定戦が4試合組まれていた。フリッパーズは第2試合、相手のFC LANDSはグループ首位で昇格トーナメントに参戦し、ここに辿り着いたチームだった。1年間のリーグをしぶとく戦い切ったチーム同士、強い思いのぶつかり合いになるはずだ。
開始直後、先制点を奪われたことをツイッターで知ったのは、小田急線の藤沢駅のホームだった。今のフリッパーズなら1点や2点のビハインドを跳ね返す力は持っていると言い聞かせて、とにかくグラウンドへと急いだ。
グラウンドに着くと、思いの外、観客が多い。さすがに昇格戦ともなると関係者以外にも,熱心な社会人サッカーファンも足を運んでいるようだ。グラウンドへ続く階段を降りるとフリッパーズのベンチ裏だった。リードされているにも関わらず雰囲気は上々、ベンチの面々の背中が躍動している。ピッチに目を移すと、青に紺のボーダーラインのフリッパーズのユニフォームが目に飛び込んできた。押し気味に攻めているのが、はっきりとわかる。惜しいシュートが何本かあった後に、コーナーキックから同点弾をねじ込んだ。歓喜に沸くイレブン。両手を頭の上で重ねる奇妙なゴールパフォーマンスをしながら、誰もが笑顔に溢れていた。思い切りサッカーを楽しんでいる。これこそフリッパーズの真骨頂だ。

フリッパーズのチームコンセプトに「ポゼッション」がある。サッカー的な日本語に直せばボール支配率あるいはボール保持率と言うことになるだろう。今までの試合を見ていて、フリッパーズが目指している「ポゼッション」とは、単にボールを繋いで保持するだけではなく、気持ちの上でもしっかりと繋がっていることを意味しているような気がする。気持ちの籠っていないパスは淡白で繋がらないことがある。太い絆で結ばれたパスは仲間の心へとしっかりと届き、そのパスの意味さえもダイレクトに伝わるはずだ。仮にパスが繋がらなかったとしても、またやり直す勇気も沸く。この日のフリッパーズはベンチもサポーターも含めて、この1年10ヶ月で培ってきた太く強い絆で結ばれているようだった。

後半になっても、フリッパーズは自分たちのサッカーを貫いた。迷いはない。ピンチも全員で守り、相手の素晴らしいシュートもキーパーが必死に防いだ。次の1点を取った方が昇格、そんなムードの中、フリッパーズは主導権を握り続けてゲームを進めているように見えた。そして、後半も終盤、ドリブルで駆け上がった選手が見事にビューティフルゴールを決める。
歓声、笑顔、ガッツポーズ、拍手……ピッチの内と外で1年10ヶ月分の喜びが爆発していた。フリッパーズは最後まで自分たちのサッカーをやり切り、楽しんで勝った。

チームが発足して昇格を果たしたこの日まで、僕はフリッパーズを通してサッカーを改めて楽しませてもらった。ほとんどが勝ち試合だったが、負けも引き分けも、いつもフリッパーズらしくみんなでサッカーを楽しんでいた。これから一段ステージが上がる。でも、決してこれまでのスタイルを変えずに、もっともっとサッカーを楽しんで欲しいと願う。そして、いつの日か、Jリーグのチームに挑戦する日が来ることを大真面目に楽しみにしていたい。

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