LIVE PASSとデモテープ
「NOV 29 1992」――

LIVE PASS にはその刻印が押されていた。
デモテープに挟んだ28年前のライブのチケット。

親友ののりまきが、横浜の港の近くにあるライブハウスで、
ギターを弾き、歌った日のものだ。
29才だったシンガーの、のりまきとリスナーの、僕のしるし。
それは、ずっと自分の仕事場の片隅に置かれていた。

久しぶりにデモテープをカセットデッキに入れ、のりまきの声を聴く。

『君のことでワカラナイトコアル けどでも
 探らないで そのままそっとしておく』—「HOPE」より

当時の僕は、酔いに任せて、その歌詞に文句をつけた。
「付き合っている者同士ならわからないことはそのままじゃ駄目だろ」と。
のりまきは、物わかりの悪い友達を諭すように、
「付き合いって、そうじゃないんだよな」と言っていたと思う。

今ならわかる気もする……恋人であれ、夫婦であれ、友達であれ、
全てがわかり合えれば良いというものではないことも。

久しぶりにそのデモテープをデッキに入れ、
アナログなやわらかいその音に耳を傾けた。
のりまきの声は、青くて真っすぐだったが、
それを聴いていた当時の僕は、青くて真っすぐだったかは定かではない。

コメント

naochan
2020年4月19日11:14

青春の想い出に浸った時間でしたね。
のりまきさんの優しさがにじみ出ています。

音楽、やっぱり、良いです。せっかくの時間では?
お邪魔しました。

羽生遊
2020年4月20日16:36

naochanへ
カラカラと音がするケース、パカッと開けてカセットを出す。
カチッとデッキにカセットを入れ、再生を押すと柔らかい懐かしい音——
のりまきのお手製のデモテープは、優しく心に響きました。

相手を思いにそっと寄り添い、触れて欲しくない心には触れず、
だからと言って、放っておくのではなく。
改めて教えてくれたような気持ちでいます。

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