鶴見からのんびりと京浜東北線に揺られて約1時間、
会場の駒場総合運動公園がある浦和は静かな地方都市の風情だった――。

夏は暑さを満喫する、それが自分の主義。
夏があるから、涼風に爽やかさを感じ、ビールの旨みも増す。
そんなわけで妻と次男を連れ立って、8月3日、暑い埼玉へと向う。
目的はインターハイのサッカーの準決勝、流通経済大柏対佐賀東。
駅からバスで10分ほどのスタンドの観客は、
冬の選手権の三ツ沢に比べればずっと少なく5分の入り。
それでも両校の応援団、地元のサッカー少年達の熱気が溢れている。

試合は細かいパス回しと連動する動きで流経大柏が優勢に進める。
それでも前半は佐賀東のFW9番を軸とした速い攻撃が流経ゴールを脅かしていた。
さすがに全国ベスト4、一瞬の隙も作れぬ緊迫した展開だ。

後半になると試合の流れは流経大柏へと大きく傾く。
前半からの連動する動きと激しいプレスが全く変わらない。
選手権を制した実力は新しいチームになっても本物のようだ。
そんな中でも流経大柏の小柄なFW9番は凄い。
160cmそこそこの身長だと思うが、ただ動き回るだけでなく、
攻撃に守備に鋭く気の利いた動きをする。
無尽蔵の体力と変わらぬ躍動感、後半になると彼が絡んだ2点が入る。

まず1点を目指す佐賀東も攻撃的な選手を投入し、リスクを冒して攻めあがる。
時すでに遅しかもしれない。それでも決勝への扉を開くためには、
最後の最後まで諦めるわけにはいかないのだ。

終了のホイッスルがなり、歓喜と落胆が対照的な両校。
どちらにも拍手を送りたい。
ベンチやスタンドにいる選手たちにもお疲れ様と言いたい。
一生懸命、精一杯、そんな言葉が頭の中をぐるぐると廻る。

スタンド出て、夏の暑さと試合の熱さの余韻に浸る。
上気した顔の次男、脱力しきった妻。
オリンピックと甲子園の影にひっそりと隠れてしまったインターハイ。
きっと、どの会場でもこんな高校生たちの熱気に包まれているはずだろう。

みんな、頑張れ――。
5日の夜、仕事を終えてから、
みなとみらいを抜け、石川町へと向いました。
E&Jカシアス・ボクシングジム――。
その名の通り、カシアス内藤さんが会長をしているジムです。

3年前、僕はカシアスさんのことを書きたくて、何回かジムに通いました。
今回はその縁もあって、母校校友会の場で講演会をして戴くことになり、
その打ち合わせのためにそのジムに行きました。
小ぢんまりとしたジムは若い選手達の活気で溢れ、
カシアスさんは変わらぬ笑顔で僕を出迎えてくれました。

「それでどうしましょうか?」

カシアスさんは人と人との絆をテーマに講演をしたいとのこと。
ボクシングを通じて、様々な出会いや葛藤があったカシアスさんらしいテーマに
僕はもろ手を挙げて賛成しました。

ガンと闘いながら、日々後進を指導し、
講演会活動にも奮闘するカシアスさん。
笑顔の奥にある人生の機微を同窓や後輩たちと一緒に、
真剣に耳を傾けたいと思います。

7月20日、海の日――
対戦相手のいないゴングが鳴ります。
知人のYさんのご好意で、たまたまチケットが手に入りました。
W杯アジア3次予選、日本対オマーン。
サッカー観戦は好きですが、代表戦は初めてでした。

サッカー好きの友人のS君を誘い、
競技場のすぐ裏のYさん宅前でYさんご夫妻と待ち合わせ。
僕以外の3人は代表のユニフォームを身にまとい、すでに臨戦モードです。
スタジアムに向うまばらな行列に流され、
ああだ、こうだと4人で試合の展望を話しながら歩きます。

意外に静かな日産スタジアム周辺、八分、いや七分入りのスタンド、
これが今の日本のサッカーの現状なのかと、思いをめぐらしました。
両国の選手達が入場、思ったよりも低く静かに響く歓声。
程よい緊張に包まれた空気とどんよりとした涼しい夜空が、
日本代表たちの表情を更に精悍に変貌させていくようです。

なんだろう……この昂揚感は――

代表への思い入れはさほど強くはありません。
それが、なぜか心の奥底がざわざわします。
青のスタンド、いつもならテレビで聞いているサポーターの叫び、
闘いを前に周到な準備を繰り返す代表たち……。

その時、僕は決めました。
この雰囲気にどっぷりと浸かってしまおうと――。
「いいですよ!」
カシアスさんは気持ちよく、僕たちの依頼を受けてくれました。

カシアス内藤――
元東洋ミドル級チャンピオンにして元世界ミドル級1位。
沢木耕太郎氏に描かれた「一瞬の夏」では、
カムバックを目指し、挑み、そして、敗れます。
強いけど優しすぎるボクサー。
そんなカシアスさんに僕は共感しました。

その後も、更に山あり谷あり人生の中、
ようやくジムの開設に漕ぎ着けました。
そのカシアスさんに7月に開催する母校の校友会での、
講演会をお願いしました。

3年前、僕は今のカシアスさんのことを書きたくて、
図々しくもそのジムにお邪魔しました。
ボクシングのこと、自分のこと、ジムのこと、
たくさんの話を聞くことができました。

カシアスさんは今、ガンと闘いながら、
後進の指導に命をかけています。

カシアスさんは何を語ってくれるのか――
木曜の夜のクライミングジムは、
たくさんのクライマーたちでひしめいていました。
その中に混じって、息子のケンと甥のアツシが、
ひたすら上を目指しています。

「さっきより、良くなったね」

爽やかな笑顔で熱く明るく指導してくれるのは、
NPO法人アラジンクライミングの小川弘資さん。
奥さんの和美さんと二人三脚で、
楽しむクライミングの普及に日々奮闘しています。

僕は以前、モロッコの大岩壁に挑む小川夫妻のことを書きました。
圧倒的な大自然と格闘しながらも共生しようとする2人の姿は、
現実世界でぬくぬくと生きる僕に、強い喝を入れてくれるようでした。

ライフスキルを身につけて欲しいんです――

「人々が日常生活で生じる様々な問題や要求に対して、
建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」
――WHOのライフスキルの定義より

愛好者はもとより、子どもたちや子育て中の母親、知的障害児……
小川夫妻はクライミングを思う存分に楽しむ中から、
そんなライフスキルを様々な人たちが身につけて欲しいと願っています。

ジムの人工壁ではケンとアツシが何度も何度も課題に挑んでいます。
落ちても、またへばりつき、また落ちても、足をかけ手を伸ばす。

「もう少し足をあげてごらん」

壁を見つめ、岩を見つめ、人を見つめる小川夫妻の日常は
これからもずっと続くことでしょう。
今年もスカッシュの全日本の季節がやってきました。

僕もこの競技をかじっていたこともあり、
知り合った選手たちも数人います。

元チャンピオンの佐野公彦さんは今回はけがで出場を断念。
強靭なハートの持ち主の佐野さんのことですから、
きっと来年は全日本のコートに復帰していることでしょう。

友人の石田さんからは1回戦突破の知らせがありました。
30を過ぎてからスカッシュを始めた彼。
40になりますが、スカッシュへの情熱は熱くなる一方です。

そして、いつか、
全日本の舞台に復帰してもらいたい選手がいます。

坂本聖二――スカッシュの神様と呼ばれる男。

60歳になった坂本さんは今年練習を再開しました。
古傷が疼く体に鞭を打ち、自分を奮い立たせています。
いつかはあるのか、いつかはないのか。
例えいつかはこなくても、僕は応援し続けたいと思っています。
いかつい体躯でひたすらゴールを目指す若者がいた。
10月21日、静岡県裾野市にある運動公園――
日本一の山が光っている晴天だった。

その日、次男のリクエストで僕たちは裾野市へと向った。
全国高校サッカー選手権、静岡県大会の二次リーグ。
その若者を見るためにここに来たわけではない。
勿論、面識はないし、彼の存在すら知らなかった。

「おっ!」
次男が思わず叫ぶ。目当ての試合の前の試合のことだ。
ドリブルを駆使し、貪欲に疾走する背番号9がいた。
彼はその左足と右足から1点ずつをもぎとり、
チームの勝利に貢献する。
若者のドリブルは僕の記憶に中に確かな足跡を残してくれた。

そして、11月20日。
ニュースです――静岡に住む知人からの連絡だった。
知人に教えられたアドレスをクリックする。
驚いた。ニュースは裾野で見た若者のことだった。
どうやら、その彼がスペインのプロリーグへと
旅立つことが決まったらしい。
日焼けした顔の中、きりっとした眼差しが、
遠くを見つめるように輝いている。

夢に一歩近づいた――

若者は記者会見でそう言ったらしい。
成功の確証のない厳しい世界への自分自身で決めた一歩。
それは彼にとっては小さな一歩かもしれない。
でも、その一歩を踏み出したことを
僕は心から称えてあげたい気持ちになった。
今シーズン最後の草野球の試合。

試合といっても、気心の知れたチームとの、
和気藹々としたボールゲームです。

「やっと満塁男の出番か」

ちょっと虚勢を張っての今シーズン最後の打席は、
1アウト、ランナー満塁の絶好のチャンス。
ワンストライク、ワンボール。
何が来ても打ちに行くと決めた3球目。

よし、きた!――

ジャストミートのライナーは、
勢い良くピッチャーの方向へ。

抜けた――

そう思った瞬間、ボールはピッチャーのグローブの中。
3塁ランナーも飛び出していてダブルプレー。
一瞬にしてチェンジ。

人生を感じた打席でした(笑)。
逆転満塁弾を打たれるには伏線があった。
その前の打者、自信を持って投じた低めのストレートを
エースの野村は二度、ボールと宣告された。
その結果の押し出しのフォアボール。
1対4、尚満塁。

ストライクで勝負、もうボールは投げられない。
ホームランを打たれることなど全く頭になかったはずだ。
彼はエースだ。

確かに球威も落ちていたが、
余りにも甘いスライダーだった。
相手打者の副島がジャストミートした白球は、
ギラギラと熱するレストスタンドに飛び込んだ。

打たれた直後のエースの顔を見た。
精気は失っていない。
まさかという顔でもない。
淡々と現実を受け止め、淡々と悔しがっている。
僕にはそんな風に見えた。
なぜか、ほっとした。

佐賀北対広陵の8回裏の攻防――。
今年もやはりドラマがあった。

高校野球

2007年8月10日 スポーツ
ついつい見てしまう高校野球――
太陽が煌くグラウンドで、球児たちの光る汗に引き込まれます。

2年前、川崎の等々力球場へ、ある高校球児を応援に行きました。
神奈川県大会の1回戦、今日のように暑い日でした。

彼は6番ファーストで攻守にはつらつとしたプレーで、
下級生の多いチームを引っ張っていました。

0対7で迎えた6回裏、ノーアウトランナー1塁。
ここでこのランナーがホームに還って来なければ、
コールド負けです。

彼はその場面でコツンと綺麗に送りバントを決めました。
これが彼の高校生活最後の打席です。

試合が終わり球場の外、
吹奏楽部の演奏に合わせて校歌を歌っている時、
思い切り泣きじゃくっている彼を見ました。

その彼も今は大学生、
サークルに入って野球は続けています。

夏。合宿

2007年8月8日 スポーツ
長男がサッカー部の合宿で昨日群馬の嬬恋に行きました。

振返って自分の高校時代、
夏休み、バドミントン部の合宿――。

教室の一角に机を密集させ、貸し布団を敷きます。
勿論、冷房なんてありません。
朝から晩まで、密封された体育館で、
ひたすらシャトルと向き合う4泊5日。

多分、長男は更に真っ黒になって帰ってくることでしょう。
高校の時の僕は、夏を終えてもいつも真っ白でした。
子供たちをほっといて、
何年かぶりに夫婦で野球観戦に行きました。

日曜の横浜スタジアム――横浜対オリックス

内野自由席の一番高いところ、
手すりと後ろの看板に傘を引っ掛けて、
即席の指定席を作りました。

配球を読みながらの僕。
「佐伯、しっかり走ってよ」とカミサン。

熱烈に応援するでもなく、
ぼんやりと眺めるでもなく、
のんびりと日曜の午後の野球観戦。

ここに来て、グラウンドにいる選手たちを
羨ましいと思う時もありました。
でも、今はそんな思いはありません。

40歳も半ばになり、やっと自分のグラウンドが、
見つかったのかもしれません。
高校1年の時、野球部をやめた甥っ子のショウが、
この6月、新たな道に挑もうとしています。

「おじちゃん、おれ、また野球やってみようと思ってるんだ」

地元の硬式野球のクラブチーム、
入団への門戸は開いているとは言え、
大人に混じっての本格的な野球はそう甘いものではないでしょう。

高校2年の甥っ子のショウ。
小学校からずっと野球に関わってきた野球小僧でした。

「おれ、野球しかないから……」
高校に入る時に言っていたショウ。

自分が本当に納得するまで、
とことんチャレンジすれば良いと思います。
44歳。ハマのおじさんこと工藤公康。
開幕からもがいた末に、今季初勝利をものにしました。

現在の年は僕と同じ、稼ぎに大きな違いはあれど(笑)、
おなじ同世代のおじさんであることは一緒です。

若い頃のボールの勢いはありません。
汗まみれで投げる姿は、あえぐようで必死です。

振返って自分はどうか――
汗まみれで働いているか、あえいでいるか、

いや、まだまだ、もっとやれる。

工藤のゴールは近いかもしれないけれど、
僕たちのゴールはまだまだ先です。
昼休み、何気なくテレビを付け、
何気なく高校野球を見ていました。

3回表、1アウト、ランナー1塁2塁。
4番バッターのカウントは2アンド2。

ピッチャーの投じたボールはインローのストレート、
4番は迷わず豪快にフルスイング、
しかも身体の軸を保ち、開かずにジャストミートです。

口をあんぐりとあけたまま、
僕はスタンドに勢い良く飛び込んだ白球を見ていました。
久しぶりに本物のホームランを見た気分です。

「おい! ケン凄いぞ!」
自分の部屋にいた息子を思わず呼びました。

その4番バッターは次の打席でもホームランを叩き込んで、
松井の記録と並びました。

2007/Jan/7

2007年3月13日 スポーツ
真っ白な表紙の片隅に「2007/Jan/7」のタイトル。

友人のフォトグラファー、ノジョー君が
丹誠を込めて作り上げた15人の子供の写真集です。

次男ケンとそのチームメート、15人が一人ひとり、
はにかんだり、真面目な顔をしたり。

見開きに一人ずつが収められた小さな写真集。
このチームの、その日だけの、オンリーワンです。
たまにはみんなでクライミングをしよう――
そんな訳で祝日の月曜、娘と次男、カミサンと僕で、
いつも娘が行くクライミングジムに行きました。

ひょいひょいと自分の庭のように登りまくるユイ。
できない課題に何度もトライするケン。
案外、上手に登っているカミサン。
ただ必死に壁にへばりつく自分。

翌日は自分だけボロボロ(笑)。
横浜国際チビッ子サッカー大会。

横浜に住む多くの子供たちのサッカー祭典です。
その決勝戦が三ツ沢球技場で行われました。

息子のケンたちが準々決勝で敗れたチームが決勝に進んでいます。
その試合を見たくて、ケンとチームメート7人が三ツ沢に行きました。

本当は走りたかったフィールドを、スタンドから見下ろす子供たち。
そうやって、悔しい思いを次への糧としていくのでしょうね。
ところを宇都宮に移した今年の全日本スカッシュ選手権。
残念ながら観に行くことはできませんでしたが、
僕はあるスカッシュ選手の闘いぶりを気にしていました。

2年前――彼の1年を追った作品は、
ネット上のスポーツライター新人賞の場で発表し、
今も時折、読み返しています。
真面目に、まっすぐに、スカッシュに取り組む男――。

彼は今年も全日本に挑みました。
大会前、彼に激励のメールを出すとすぐに返信がありました。

ドクターストップ……
出るか出ないかは自分で決めろと言われたので、
出来るところまで勝負してきます。

重い傷を抱えての全日本は決勝トーナメント2回戦敗退。
良くやったのか、それとも不十分なのか。
彼の次への闘いはもう始まっていることと思います。
昨日は所属する草野球チームのベアーズの
今季、最後の練習でした。

場所は鶴見大黒町にあるグラウンド。
芝を踏み、土を蹴り、ひたすらボールを追いました。

昔の部活のように声を張り上げ、
珍プレーに笑い、みんな疲れ果てながら、
スポーツをする楽しみを全身で感じていました。

もち米君、八重ちゃん、お疲れ!

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